技術コラムフロン排出抑制法の基礎と
定期点検実務を実施するための
総合ガイド

フロンとは炭化水素(HC)の水素(H)をフッ素(F)や塩素(Cl)で置換した化合物のことです。フロンは空調機(エアコン)や冷蔵庫の冷媒として重要な役割を果たしていますが、実は気候変動(地球温暖化)の原因物質の一つです。

本記事では、フロン排出抑制法を遵守した定期点検実務を解説します。

フロン排出抑制法とは

フロン排出抑制法は正式名称を「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律」といいます。オゾン層破壊や地球温暖化の原因となるフロン類の排出を削減するため2015年4月に施行 されました。フロン類の製造から排気まで、ライフサイクル全体を適切に管理するための対策を実施することが定められています。

フロン排出抑制法とは

この法律は、業務用冷凍空調機器(第一種特定製品)の第一種特定製品管理者(管理者=所有者)に対し、次のようなことを義務付けています。

  • 機器の適切な管理
  • 定期的な点検の実施および記録・保存
  • 漏えい事故等が発生した場合における修理完了までのフロン類充填禁止

また、機器の設置・修理業者には冷媒の適正な充填・回収を求め、フロン類の大気放出を防止することで環境保護を図っています。

法律の詳細な内容はこちら

必要になる定期点検の内容(直接法・間接法の違い)

まず、点検には簡易点検と定期点検があります。それぞれの概要は表1のとおりです。

表1.簡易点検と定期点検の違い

点検の種類 対象となる機器 点検頻度 実施者
簡易点検 すべての機器 3か月に1回以上 具体的な限定なし
定期点検 冷凍冷蔵機器 定格出力
7.5kW以上
1年に1回以上 十分な知見をもつ者が、自ら行う
あるいは立ち会う
エアーコンディショナー 定格出力
50kW以上
定格出力
7.5kW以上
50kW未満
3年に1回以上

簡易点検は外観の確認や異音の有無など、特に技術的な知見がなくても実施できます。しかし、簡易点検で冷媒の漏えいや機器の故障など、異常が見つかった際には、すぐに専門家による点検が必要となります。また、簡易点検より詳細に行う定期点検も実施しなければなりません。

定期点検には直接法と間接法があります。直接法とは冷媒回路を直接点検するもので、主に次のような方法を用います。

  • 発泡液法:疑いのある箇所に発泡液を塗布し、漏えいしていれば吹き出すフロンを検知
  • 漏えい検知機を用いた方式:電子式の検知器を用いて漏えいする微量のフロンを測定
  • 蛍光剤法:配管内に注入された蛍光剤によって漏れ出たフロンを確認。紫外線ランプなどにより外部から特定可能

一方、間接法は蒸気圧力や吐出ガス濃度を計測することにより、冷媒ガスの漏れを推察するものです。

なお、機器の使用・廃棄等に関する義務(点検を含む)を怠った場合には、50万円以下の罰金 を科せられる場合があるため、注意してください。

対象機器早見チャート

フロン排出抑制法の規制対象となるのは、どのような機器でしょうか。

対象機器早見チャート

休止中・予備機は要点検?免除条件に注意

まず、規制対象となる第一種特定製品の例を表2に示します。

表2.フロン排出抑制法の規制を受ける機器(例)

設置場所 第一種特定製品となる機器の例
スーパー、百貨店、コンビニエンスストア 全体 パッケージエコアコン(ビル用マルチエアコン)、各種冷凍機、自動販売機など
食品売り場 業務用冷凍冷蔵庫、各種ショーケースなど
バックヤード プレハブ冷蔵庫(冷凍冷蔵ユニット)
生け花売り場 フラワーショーケース
公共施設 オフィスビル パッケージエアコン(ビル用マルチエアコン)、各種冷凍機、自動販売機など
各種ホール
役所
レストラン、飲食店、各種小売店 魚屋、肉屋、果物屋、食料品、薬局、花屋 店舗用パッケージエアコン、業務用冷凍冷蔵機、各種ショーケースなど
工場、倉庫等 工場、倉庫 設備用パッケージエアコン、クリーンルーム用パッケージエアコン、業務用除湿機など
学校等 学校、病院 パッケージエアコン(GHPを含む)、業務用冷凍冷蔵庫、自動販売機など

(「第一種特定製品とは」より抜粋)

なお、車載用エアコンやルームエアコンは対象外です。

使用していない機器のうちフロン類が充填されている場合は、次のように点検を行います。

  • 簡易点検:3か月に1回の頻度で点検が必要。ただし、簡易点検のためだけに電源を投入する必要はない。
  • 定期点検:実施期限を過ぎても点検は不要だが、再度使用する前に実施する必要がある。

なお、フロン類が充填されていない場合は、点検する必要はありません。

点検に必要なコスト

フロン排出抑制法では、フロン類の算定漏えい量の報告が求められています。算定漏えい量とは何のことでしょうか。

算定漏えい量とGWPアップデート注意点

対象機器の管理者は毎年度、次式に基づいて算定漏えい量の計算が必要です。

フロン類算定漏えい量(CO2-t)
=[充填量(kg)−機器整備時の回収量(kg)]×地球温暖化係数(GWP)÷1,000

毎年度における算定漏えい量が1,000 CO2-t以上になった場合には、翌年度の7月までに事業を所管する官公庁に報告の義務が発生します。算定漏えい量の未報告、および虚偽報告の場合は10万円以下の過料 を科せられる場合があるため注意してください。

また、2023年4月に、フロン類の種類の追加、およびGWPの見直し が実施されました。今後も見直しが実施される場合もあるため、算定漏えい量を求める場合には、最新の情報を参照する必要があります。

なお、定期点検の実施費用(外注費用)は10,000円/台~14,000円/台程度 です。例えば、定格出力50kW以上の空調機(点検頻度1回/年)を10台導入している場合、年間の費用は100,000円/台~140,000円/台程度となります。また、簡易点検を外部に委託する場合は1,500円/台程度 の費用がかかります。

誰が点検できる?資格と外注の選び方

専門点検や定期点検は、どのような人が実施できるのでしょうか?

社員内製ルート:講習・試験・費用・日数

フロン類の定期点検を実施できるのは、「フロン類の専門点検・定期点検に関して十分な知見を有する者」とされており、具体的には表3に示す資格保持者を指します。

表3.フロン類の専門点検・定期点検に関して十分な知見を有する者の保有資格(代表例)

資格名称 講習/試験内容 試験費用 講習/試験日数 有効期限(更新頻度)
第一種冷媒フロン類取扱技術者 ・冷媒の環境影響および環境規制についての知識
・冷凍・空調に関する理論など10項目
26,180円
(消費税、テキスト代込)
1日の講習の最後に試験実施 5年
第二種冷媒フロン類取扱技術者 第一種と範囲は同じだが、より基礎的な内容(一部は一種と同等) 23,100円
(消費税、テキスト代込)※1
1日の講習の最後に試験実施 5年

※1:有効期限内のRRC技術者は17,820円(消費税込)

また、以下の資格保有者、あるいは業務実績のある者も専門点検・定期点検を実施可能です。

  • 冷凍空調技士
  • 高圧ガス製造保安責任者(冷凍機械)
  • 高圧ガス製造保安責任者(冷凍機械以外)であって、第一種特定製品の製造または管理に5年以上従事した者
  • 冷凍空気調和機器施工技能士
  • 高圧ガス保安協会冷凍空調施設工事事業所の保安管理者

(「十分な知見を有する者について」より抜粋)

外注ルート:委託契約に盛り込むべきチェック項目

点検を外注する場合は、点検にまつわる内容を詳細に明記する必要があります。

  • 点検範囲:機器の種類・台数・定格出力など
  • 点検頻度:簡易点検(3か月に1回以上)、定期点検(1年に1回以上、あるいは3年に1回以上)
  • 点検内容:簡易点検(異常音、異臭、油滲みなど)、定期点検(簡易点検の内容+フロンガスの漏えい検査など)
  • 点検結果の報告:報告書の内容・提出方法・保存期間など
  • 責任範囲:品質保証、安全管理、漏えい時の責任分担など
  • その他点検業務に必要なこと:契約期間、契約変更・解除の条件、紛争時の解決方法、フロン排出抑制法の遵守など

点検チェックリスト & 書式ダウンロード集

点検に必要な整備点検記録簿などの書式は以下よりダウンロードできます。

その他、漏えい量の算定・報告については こちらをご覧ください。

罰則・行政指導“リアル事例”で学ぶ失敗パターン

フロン排出抑制法は厳しく運用されており、違反すると次のような罰則、あるいは行政指導を受ける場合があります。

香川県において、管理者が点検や漏えい量算定を怠った事例がありました。この事例は立入検査で発覚したもので、口頭による注意を受けました。

また、愛知県ではゴルフ場の管理者が同様に簡易点検を行っていないことが発覚しました。この管理者は一度口頭にて指導を受けましたが、その後も改善されなかったため、文書による指導を受け、1年後の確認で簡易点検を実施していることを認められました。
(「不正事例について」より)

他にも次のような事例が発生しています。

  • フロン排出抑制法および点検実施の義務を把握しておらず、点検および記録の未実施
  • 業務用エアコンが第一種特定製品に該当することを把握しておらず、点検および記録の未実施
  • 第一種フロン類充填回収業者に登録していない事業者(管理者)の従業員(有資格者)によるフロンの充填

(「フロン排出抑制法における 中下流部分のフォローアップについて」より)

管理者の場合、認識の違いや怠慢による点検の未実施による違反が多いと考えられます。しかし、最後に紹介した事例のように重大な事案に発展することもあります。管理者のすべきこととできることをよく確認しましょう。

点検業務を効率化するツール「Dfct(デーファクト)」

Dfct(デーファクト)は、ダイキン工業が提供する「第一種特定製品の簡易点検サポートツール」であり、次のような特徴があります。

  • 簡単機器登録:銘板をスマートフォンで読み取ることにより、自動で機器データを登録。使用機器リストにて一括での編集・登録も可能。
  • お知らせ機能:3か月ごとの簡易点検をメールでお知らせ。画面に沿って点検(チェック)するだけで簡易点検が可能。
  • 情報一元管理:情報はサーバーで一元管理。設備管理会社と拠点担当者など、異なるレイヤーで情報を共有可能。
  • 記録の簡単出力:パソコンやスマートフォンなどで簡単に記録を確認。帳票やCSVデータとして出力可能。

業務用冷蔵空調機器を管理されている方は、こちらから詳細をご確認ください。